21年9月末にドイツの総選挙が行われます。
21年9月26日はドイツで総選挙がありました。
戦後ドイツ史上はじめて、現職の首相が再選を目指して戦わない選挙になり、
そして過去にないほど大接戦の選挙となりました。
単独では過半数を獲得した政党はなかったため、これから連立政権樹立に向けて
各党の交渉が始まります
ポストメルケルは誰になり、どういった政策を志向する政党同士が組むのでしょうか?
EUで最も影響力のあるドイツの動向は欧州の今後を左右するため
欧州でビジネスする人間にとっては必ず知っておくべきトピックです。
しかし、普通の日本人にとってドイツの政治はあまりなじみがありませんよね。
ドイツ政治に詳しくない人向けに今回はドイツ政治についてまとめてみました。
別の記事でドイツ史もまとめていますので、こちらもぜひお読みください。
今回の記事は、ドイツ政府が刊行している『ドイツの実情』という冊子と
外務省のホームページなどを参照しました。
1.議会制度:二院制
まずドイツの政治制度について『ドイツの実情』の情報をベースにまとめてみました。
なんかややこしいなーと思いましたが、
これらをナチスの台頭を許した過去の反省=『権力分散の装置』と考えると各機能の役割が理解しやすくなりました。
更に詳細は以下は外務省が説明するドイツ政治の概要を読んでください。
(1)連邦議会定数 598議席(任期4年)。但し、調整議席を含め、現在709議席。
小選挙区制を加味した比例代表制の直接選挙により選出。直近は2017年9月24日に実施。
連邦議会 会派名 議席数 キリスト教民主同盟(CDU)/キリスト教社会同盟(CSU) 245 社会民主党(SPD) 152 独のための選択肢(AfD) 88 自由民主党(FDP) 80 左派党 69 同盟90/緑の党 67 無所属 8 合計 709 (2)連邦参議院 69議席。各州政府の代表により構成
(原則州首相及び州の閣僚、人口により各州3~6名)
連邦参議院(2021年5月現在) 各州政府の構成 議席数 連邦議会の与党のみが政権にある州(3州) 12 連邦議会の与党及び野党が政権にある州(13州) 57 連邦議会の野党のみが政権にある州(0州) 0 合計 69 2.歴代の政権
年代 政府の構成 1949~1957年 CDU/CSUと自由民主党(FDP)(アデナウアー首相(CDU)) 1957~1961年 CDU/CSUとドイツ党(アデナウアー首相(CDU)) 1961~1966年 CDU/CSUとFDP(アデナウアー首相(CDU)/エアハルト首相(CDU)) 1966~1969年 CDU/CSUとSPDの大連立(キージンガー首相(CDU)) 1969~1982年 SPDとFDP(ブラント首相(SPD)/シュミット首相(SPD)) 1982~1998年 CDU/CSUとFDP(コール首相(CDU)) 1998~2005年 SPDと緑の党(シュレーダー首相(SPD)) 2005~2009年 CDU/CSUとSPDの大連立(メルケル首相(CDU)) 2009~2013年 CDU/CSUとFDP(メルケル首相(CDU)) 2013~2017年 CDU/CSUとSPDの大連立(メルケル首相(CDU)) 2018年3月~ CDU/CSUとSPDの大連立(メルケル首相(CDU)) 1949年の西独成立以来、一貫して連立政権。戦後は、概ねCDU/CSUとSPDの二大政党の間で小党FDPがキャスティング・ボートを握る形で連立政権を構成。1970年代末以降は環境問題に対する関心の高まりを背景に「緑の党」が台頭し、1998年には連立政権に参加。また統一以降は、旧東独市民の現状への不満票を吸収して旧東独政権党の流れをくむPDS(SPDから分裂した勢力等が加わり、2007年に「左派党」と改称)が議会に進出。
2005年11月22日に就任したメルケル首相は、ドイツ史上初の女性かつ旧東独出身の首相。就任当初は指導力不足を懸念する声も聞かれたが、EU議長国(2007年前半)及びG8議長国(2007年)としての成功や、近年では欧州債務危機への手堅い対応、ウクライナ情勢や英国のEU離脱を巡る強いイニシアティヴなどにより、国民の高い人気を集めてきた。
2017年9月24日に実施された連邦議会選挙においては、CDU/CSUは第一党を維持したものの戦後二番目に低い得票率となり、連立パートナーであったSPDは史上最低の得票率に後退した。また、反ユーロを掲げ、メルケル首相の寛容な難民政策を批判する「ドイツのための選択肢(AfD)」が初めて連邦議会に議席を獲得した。政権樹立に向けた各党間の調整が行われた結果、2018年3月第4次メルケル政権発足。
2.ドイツの政党について
ドイツの政党名で一番謎だったのが、キリスト教民主同盟という
「政教分離できていないのか?」と心配になる名称の政党があり、
そして実はこの政党とその姉妹政党がが戦後政治の中心です。
『ドイツの実情』によると、
現在(21年9月の総選挙前)の第19期のドイツ連邦議会では、7つの政党が国会に議員を出している。CDU、CSU、SPD、AfD、FDP、左派党、それに同盟90/緑の党である。このほかおよそ25の小政党があるが、5%条項のため連邦政治への影響力は限定されている。しかしさまざまな州議会では、こうした小政党も議席を獲得している場合がある。
ドイツの選挙制度では、ひとつの政党が単独で政権を握るのは難しく、政党連合が通例である。小政党や極小政党の存在によって多数派の形成が困難になるのを防ぐため、5%条項と呼ばれる制限条項を設けて、連邦議会から極小政党の議席を排除している。
(引用:ドイツ基礎データ|外務省 (mofa.go.jp))
では、各政党についてご説明します。
現在の議会の座席数は以下の通りです。
伝統的に色で各党を表すようで、色の組み合わせで連立を表現してきました。
出典:Political Parties – SoGerman (soton.ac.uk)
- ドイツキリスト教民主連盟
CDU: Christlich Demokratische Union Deutschlands– 1950年設立,保守・リベラル・キリスト教・社会的なドイツ最大の党派。
– 党勢は年々徐々に低下。
‐ 初代首相のアデナウアー、東西統一を行ったコール、そして現在のメルケルなど輩出。- 党員数: 427,000人
– 党の色:黒
- バイエルン州キリスト教社会同盟
CSU:Christlich-Soziale Union in Bayern e.V.– バイエルン州でのみ活動する地方政党(バイエルン州をほぼ独占)
– CDUと、1949年の第1回連邦議会選挙から連邦議会内で共同会派を組んでいる
– 最近はCSUと難民政策などで意見が割れている- 党員数:141,000人
– 党の色:黒
- ドイツ社会民主党
SPD:Sozialdemokratische Partei Deutschlands– 最大の党 員 数 を 誇 る 政 党 ( 党 員 数463,700)
– シュレーダー前首相を輩出するなど、2大政党の一つ
– 19期の国会においても現在もCDU/CSUとともに連立内閣を形成中
– 党の色:赤
- 緑の党 BÜNDNIS 90/DIE GRÜNEN
– 環境破壊および原子力エネルギーへの抗議運動から誕生
– 1990年代後半からは第3党に躍進
– 1998年から2005年まで連立政権で与党として国会に参画- 党員数:61,000人
– 党の色:緑
- 左の党 DIE LINKE
– 民主社会党(PDS)および労働社会公平党(WASG)が合併した左派政党。
‐ PDSの前身は旧東ドイツの独占党派だったSED
– 旧東ドイツでの賛同者が多い- 党員数: 5万9000人
– 党の色:ピンク
- ドイツのためのもうひとつの選択
AfD: Alternative für Deutschland– 極右政党(ネオナチ)
‐ 特に難民拒否政策で2016年頃から指示を伸ばした。
‐ 旧東ドイツを中心に成長– 党員数: 5万9000人
– 党の色:青色
- 自由民主党
FDP: Freie Demokratische Partei– 4年ぶりに議会に返り咲くことになった
– 1948年設立のリベラル政党
‐ドイツ初代大統領のホイスが初代党首– 党員数: 5万4000人
– 党の色:黄色
中道、リベラル、右派、左派と言われてもどうもよくわからないので、
各党のポジションを説明した資料をご紹介しておきます。
20年3月の毎日新聞では下記のようなプロットで説明されています。
ただ、ポリティカルコンパスという英語のサイトでは、
少し違うプロットになっていました。
他にオックスフォードの分析も似たようなかたちだったので、
こちらのほうがよりグローバル標準な分析のような気がします。
ポリティルコンパスでは2013年の選挙の時との比較も可能でしたので
比較してみましたが、全体的に右上にシフトしていっている傾向がみえます。
各政党の政策スタンスは簡単にわけるとこのようになります。
3.21年9月の総選挙後の政権
9月上旬の支持率は以下のように、年初は優位だった与党のCDU/CSUがSPDに
逆転されていましました。
同様に緑の党も党首のスキャンダルでイメージ失墜し、支持率が落ちてしまいました。
最終的にCDU/CSUは盛り返しましたが、SPDが第一党となりました。
しかし、連立交渉次第ではCDU/CSUが首相を出して政権を維持できる可能性もあります。
SPD: 25.7%
CDU/CSU: 24.1%
緑の党: 14.8%
FDP: 11.5%
AfD: 10.3%
左派: 5%
その他: 8.7%
CDU/CSUの失速の理由
①ラシット党首が水害被災地で笑顔で談笑していたことをすっぱ抜かれた。
②CSUのゼーマン党首が『ラシットおろし』を画策して、党内がまとまらなかった。
緑の党の失速理由
・ベアボック共同党首のスキャンダル(著作の盗作疑惑、不適切会計)
棚ぼた的にSPDの支持率があがっていますが、党首ショルツ氏にも潜在的なスキャンダルが
あり、また党事態もまだ第一党になるには準備不足との声もあり不透明な状況です。
いつ頃政権は発足するか?
- 今回はSPDが第一党になる公算が高いですが、単独で過半数を取れません。
よってこれから連立を組むために各党が折衝を重ねます。
- よって首相が決まって新内閣が発足するのは22年1月以降になる可能性が高いとの報道があります。(参考:17年の総選挙では、17年9月に選挙して、新政権が発足したのは18年3月でした)
どういった連立政権の組み合わせの可能性があるのか?
SPDとCDU/CSUとの差は僅差となり、どちらも連立政権交渉次第では政権を取る可能性があります。
ではどういった組み合わせがあり得るのでしょうか?
- 黒、黄、緑:『ジャマイカ』 CDU FDP 緑の党
CDUとFDPは過去何回か連立を組んだ経験があり、自由経済を志向する両党の親和性は高い。
ただし、FDPと緑の党は政策面で対立する点が多いため、緑の党を説得できるかがポイント。 - 赤、黄、緑:『信号』 SPD FDP 緑の党
FDPが政権に返り咲く意思が強ければ、この組み合わせもあり得る。
SPDは増税による大きな政府を志向し、小さな政府を志向し増税や大規模公共投資に主局的なFDPとの相性はよくない。
『ジャマイカ』同様にFDPと緑の党も政策面の隔たりが多い。 - 赤、赤、緑:SPD AfD 緑の党
各党共に左派色が強く組みやすいとされていたが、この組み合わせでは過半数がとれないことが確定。 - 赤、黒:『大連立』SPD CDU
3党連立はすり合わせが難しく成立するか、また成立したとしてスムーズな政権運営ができるかは微妙。消去法的に前回通りの大連立に落ち着く可能性が否定できない。 - 上記大連立が成立する場合、黒、赤、緑:『ケニア』 黒、赤、黄:『ドイツ』 など SPD/CDUの大連立に緑の党かFDPが参加する可能性もありえる。
前回の総選挙の時にも内閣が組閣されるまで時間がかかりましたが、
今回も政権発足までは長期戦を覚悟したほうがよいようです。
各政党の政策を簡単におさらい
ジェトロの記事などをベースに各党のマニフェストを簡単にまとめてみました。
CDU/CSUとFDP、SPDと緑の党の親和しの高さを新ためて感じます。
緑の党は党首の脇の甘さで支持率が失速したとの話がありましたが、政策を見ると
あまりにも環境対応について急進派すぎるところに世論がついてこなかった感じがします。
4.連邦政府と地方政府との関係
ドイツは下記のような連邦州で構成されています。
以下は、『ドイツの事情』の抜粋したサマリーです。
- 特に警察、災害保護、司法、教育、文化などの点で大きな独立性を持っている。
- ベルリン、ハンブルク、ブレーメンは都市だけど連邦州でもある。
- 国会の第2院である連邦参議院は各州から代表者で構成されており、多くの連邦法や政令は参議院での決議が必要なため、必然的に各州政府の意向が連邦政治に色濃く反映される。
- つまり連邦レベルでは野党である政党や、そもそも連邦議会には議席のない政党でも州政府への関与を通して連邦政治に影響を及ぼすことができる。
ご参考として、他にもこちらの情報は一般人にもわかりやすかったです。
ドイツの連邦制の特徴は? – ドイツ生活情報満載!ドイツニュースダイジェスト (newsdigest.de)
より専門的にはこちらの財務省の情報がよくまとまっていました。但し、2006年頃なので少し古いのでその点ご注意ください。
これで少しは理解できるようになりました。